昭和日和(其の十七) 2018年02月22日 漫歩 トラックバック:0コメント:12

堀切。

堀切は昨年秋に訪れた京成本線「お花茶屋」の隣駅である。
正式には「堀切菖蒲園」という駅名で、その名の通り菖蒲の名所で知られている。

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駅を降りるとクローバー商店街という小さな商店街に出会う。

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京成線に沿った通りをメインとして、そこかしこにクローバー商店街の名を持つ路地が点在している。

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どうということのない一画だが、下町らしい顔つきはさすが京成沿線である。
これといった収穫がないまま、帰りの電車に乗ろうと駅前に戻ったその途中、
広い道路、川の手通りというそうだが、何のへんてつもないと思っていたその通りを一見して驚いたのである。

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寂びた建物が並び、それがいずれも食堂らしい奇観。
俄然、好奇心が湧いてきた。

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近づいてみると創作ラーメンや昔からの中華そばを商う店が6軒、
それに中華食堂を含めると9軒がひしめいていて、通りの向かい側にもラーメン屋が3店はあるような。
さながら下町中華街のおもむきである。
さあ、これは困ったぞ。

どこがいいべか? 
すると、絶対ご婦人は入らないだろうと思わせるような店が目に入った。
だいたいが営業中なのかどうかも怪しい雰囲気である。
だが、べたべたと貼ったお品書きの一番上、ラーメン500円に注目。

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その下に《支那そば風》と書いてあるが、その《風》とは何ぞや!
興味津々の私は、そろそろと店の表戸を引いた。
カウンターに座ったとたん「ラーメン」を注文したのはもちろんである。

大きな丼にやや濁ったスープが鈍い光をたたえている。
チャーシュー二枚と海苔が浮いた、500円とは思えない顔つき。
しかも、オレンジが付いている。

醤油ベースであることは間違いないが、啜ってみるとほのかに独特な香りが追ってきた。
これはもしかして八角ではないだろうか。台湾ではイヤというほど見舞われた匂いである。
しかしまさかスープに八角を入れたのではあるまい。

だとすると叉焼を作る際、中国では八角を用いるが、ここの叉焼も八角を使って煮ているのかも知れない。
その叉焼の香りがスープに移って、独特の匂いになったと考えるべきか。

ただ、《支那そば》を中国固有のラーメンと思うのは間違いで、
支那そばはあくまでも日本が発祥の麺料理なのである。
戦後、《支那》は中国への蔑称と非難されたがゆえに、《中華そば》と呼称を変えた経緯がある。

中国のラーメンは、澄んだ牛のスープにパクチーなどのスパイスを効かしたもので、
カツオだしに鶏がら醤油スープという日本のラーメンとは、全く異なる麺なのである。

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(中国の典型的な牛スープの拉麺)

従って、八角を使ったから《支那そば風》というのは少々安易だと思うが。
ま、小煩いことを言うのも野暮だから、それはご愛嬌として麺を啜る。

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麺は中細のストレート麺。八角の匂いは気にならなくなったが、スープがやや甘く感じる。
チャーシューは案の定、八角を使ったらしく独特の味が滲み出てきた。
ともかくラーメンの故郷《支那》をイメージしたのだろう、これはこれで創造的な麺といえるかも知れない。

まずまずの味だが、オレンジが付いてワンコイン。
まあ、いいだろう。

いつも行き当たりばったりで無為に終わることも多いが、
一軒でもこういう奇天烈な店に出会うと、無計画な探訪を止められなくなるのだ。

懐かしさ★★☆☆☆ 散策に★☆☆☆☆


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精緻 2018年02月20日 美術 トラックバック:0コメント:14

エッチングの世界。

エッチングとは銅版による版画・印刷の技法です。
1400年半ば頃から銅版の凹版画が登場し、1500年頃には技術的にも優れたものが多く作られるようになりました。
その頂点の域に達したのがドイツのアルブレヒト・デューラーです。

その後、ブリューゲルを初め多くの画家もエッチングの作品に取り組んできました。
わが国でも池田満寿夫、長谷川潔、浜田陽三といった世界的な銅版画家が生まれています。

一方でこのエッチングは、その精緻な表現によって商業目的にも使われてきました。
写真が普及する前の通販カタログなどがそうです。
特に欧米の通販カタログは、家具から服飾、食器、宝飾品に至るまで銅版画を網羅した豪華なものでした。

当時は専門工房で職人技の商業用銅版画が大量に彫られていたのです。
例えばニューヨークの老舗百貨店メイシーズ(1851年創業)は、200ページを超える上製本を発行していましたが、
中の商品案内は全て銅版画という驚くべきカタログでした。

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今日、お見せするのは実際のカタログではありませんが、当時の作品を集めた珍しい一冊です。
その中からいくつかをご覧になっていただきましょう。

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残念ながらシャープにスキャンされていませんが、実際は写真よりずっと線が細密で質感も見事なのです。
何枚か切り取って部屋に飾りたくなります。

絵画も華やかな脚光を浴びる芸術作品とは別に、ポスターや新聞広告あるいは図鑑のために、
写実の技巧を振るってきた名も無い名人が、星の数ほどいたわけですが、
今やデジタルに取って代わられようとしています。


ちなみにこのように珍奇な図画集は、神田神保町の「南洋書房」で手に入れることができます。
神保町といえば有数の古書店街ですが、丁度のその入り口・駿河台下にある洋書専門店です。

洋書専門の店は神保町に数軒ばかりありますが、「南洋書房」には美術書が多く、
それも純粋美術ではなく、「魔術の歴史」とか「錬金術」あるいは「風俗史」「邪神の世界」といった、
怪しい図画集・図鑑がふんだんに揃っているのです。

東京に住んでいた頃、古書店街散策の折は必ず訪れて、雑然と並べられた書棚を物色していたものです。
そうやって求めた珍奇な書物が何冊かあります。
ときどきそれらを捲りながら、ウィスキーを舐める時間もなかなか乙なものでございます。

このほかに所有している図画集・図鑑は、いずれも顰蹙を買いそうなので、
ブログでの紹介は自粛させていただきたいと思います。


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赤提灯(83) 2018年02月18日 酒肴 トラックバック:0コメント:22

きのこづくし。

今月の頭に上野の「ヤリキ酒場」で遭遇したエリンギの焼き鳥風。
その素敵なチープさに思わず喝采を送りましたが、
酒場で出会ったこれはと思うつまみを、そんぐりコピーするので悪名の高い「南亭」。
さっそくお品書きに加えようと思ったのです。

ところがいざ作る段になると、さてあの焼き鳥風の味はどうやって出すのだろう。
というのが大きな悩みになりまして、夜も寝ずに考えたのでございます。
たどり着いたのが以下のような手順でして・・・

使うのはエリンギ2パック。大きなエリンギは三分の一、小さなものは二分の一に切ってください。
小鍋に水と醤油・酒、砂糖たっぷりと味醂。
それに鶏腿一口大(二切れ)を沸騰させたら、エリンギを放り込みます。

10分ほど煮たらエリンギを取り出し、小鍋の汁を煮詰めましょう。
とろっとしてきたら火を止めてください。
エリンギは串に刺してアルミホイルに乗せ、トースターで軽く焼きます。
これにさきほどのタレを塗ったら、エリンギの焼き鳥もどきの出来上がりです。

きのこA

どうでせうか・・・ドキドキ。。。
ん!?これはいけます! やはり鶏肉を加えてタレを作ったのが正解でした。
エリンギがすっかり焼き鳥に変身です~。「ヤリキ」さん、申し訳ありません。

こうなると、おふざけが止まらない南亭です。
今夜のつまみはすべて茸にしましょうか。

きのこB

お次はシメジのナムルと行きましょう。
シメジは石突を取って熱湯で5分ほど茹でます。
笊に上げて冷ましたら、顆粒の鶏がらスープと胡麻油で和えるだけ。

きのこC

舞茸でも一品作りましょう。舞茸は手でほぐして、シラスとともに炒めます。
味付けは醤油と砂糖です。最後にラー油を少し垂らして出来上がり。
香り舞茸といいますが、こうすると籠っていたキノコの旨みが引き出されて、思いがけない味になるのです。

きのこD

最後に、乾燥エノキと裂きイカのおつまみです。
キノコは乾燥させると甘みが増して、生とはぜんぜん違った旨みが出るわけですが、
ことにエノキの変身は見事なものです。

この湿度の少ない時期、ほぐしたエノキをベランダで二日も乾燥させると、
歯ごたえのある細い麺のようになります。
これを噛みしめると、エノキとは思えない豊穣な味が口中に広がるのです。

これに裂きイカを少しばかり加えてごらんなさい。
一味をちょっと振ったマヨネーズをつけて・・・
思わず泣けてくるような、絶品つまみになるのでございます。

きのこE

きのこは、水溶性植物繊維が豊富で、低カロリー。
ビタミンDが多く、骨や歯を丈夫にする効果があります。
また高血圧や心不全を防ぐといいますから、ありがたい食べ物ではありませんか。

こうして工夫すると、毎日でも飽きないようですが、
たまには、脂光りするような豚バラの串を食したいぞよ!


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十七文字の風景(2) 2018年02月16日 俳句 トラックバック:0コメント:16

ラッセル。

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少年時代を過ごした北陸富山も、豪雪地帯として知られています。
雪の質は非常に重く、30センチ積もると家中の敷居が滑らなくなるほどでした。
積もるたびに降ろした雪は家の前うしろを塞いで、部屋に入ってくる光も遮ります。

青年団の男衆が週に一回、道路端の雪を二百メートルほど離れた川へ捨てにいってくれますが、
とても追いつくものではありません。
雪の壁のような細い道路を、買い物に出たり銭湯へ通ったりの長い冬が続くのです。

当時住んでいたところは町の際で、そこからは田畑の広がる農村地帯でした。
小学校、中学校はその田畑の中を歩いて20分。
冬になると雪に覆われて、まさに一面の雪野原といった光景になります。

冬は町内の子供たちがまとまって登校します。
一晩で積もった新雪は深く、誰かが道を作らなければ小さな子供は学校へ辿りつけません。
中学上級生が先頭に立って、雪野原をラッセルします。

その後を十四五人の子供たちもラッセルしながらついてゆくのですが、
初めて雪の登校を経験する小学一年生は、足取りもおぼつかなく必死で後を追ってきます。
半べその子もいれば、やんちゃなのは雪に隠れた細い用水にはまったりして、
先導の上級生には気が抜けない登校なのでした。

半べその子も何年か経つと、ラッセルの先頭にいたりするわけで、
雪国の子供はこうして「オトナ」になってゆくのです。



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月島・深川 2018年02月14日 江戸 トラックバック:0コメント:28

もんじゃ村。

月島に来たのは6年ぶりである。特に目的があったわけではない。
深川の友人を見舞ったその足で、ふらり寄ってみたのだ。

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月島といえば「もんじゃ」、「もんじゃ」といえば月島と言われるように、
「もんじゃ」で成り立っているような商店街である。
しかし、これほど「もんじゃ」店が増殖しているとは!

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6年前はまだ雑貨屋、花屋、豆腐屋あるいは蕎麦、中華の店などもそこそこ目に付く通りだったのが、
全て「もんじゃ」で埋め尽くされたような「もんじゃ村」と化してしまったようだ。

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表通りだけでなく裏通りにも。

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そして露地にも。

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そういえば月島には狭い露地が何本もある。まるで魚の骨のように。
肩寄せ合って暮すという形容がぴったりな、下町独特の風景である。

「もんじゃ」はここ月島で一度食べただけである。
それも会社のグループ会で使ったのが最初で最後、以来「もんじゃ」は口にしていない。
何年かぶりで味わってみようと思ったが、爺さんが一人でもんじゃをつつく姿は、いかにも侘しい。
場所を替えてラーメンでも啜るか・・・

深川骨董市。

そういえば、友人から富岡八幡で骨董市をやってると知らされていた。
月島から門前仲町まではバスでふた駅である。歩いてゆける距離だ。深川に戻ろう。

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八幡宮の骨董市は歴史が古い。戦後まもなくからだと言う。
陶磁器はむろん古い玩具や煙管、古銭、刀剣など、眺めるだけでも楽しい。

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そういえばこの富岡八幡宮では、昨年禍々しい事件が起こった。
その煽りで初詣客が格段に減ったという。
今の宮司はどなたなのか知らないが、本殿からは腹に響くような太鼓の音が聞こえてきた。

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深川での食事はお不動さん参道の京料理「近為」が多くなった。
久々に「ぶぶづけ定食」をと思ったが、案の定並んでいる人が多い。
そうとう腹も減っているので、別の店へ向かう。

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渋い佇まいは、同じ参道にある深川飯の老舗「六兵衛」。
門仲で深川飯(いわゆる浅蜊飯)を食べさせるところは、無数にあるが私はここの味が最も気に入っている。

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この日はやや寒かったこともあって、「あさりの雑炊」にした。
こういう時はお腹の中から温まる雑炊に限る。
浅蜊の粥に卵を溶いだ熱々の雑炊。浅蜊から出る出汁と優しい塩気は申し分ない。

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「六兵衛」を出ると、いつもは横目で通り過ぎていた立ち飲み酒場が、いやに誘惑してくる。
中は壁一面に全国の銘酒、銘酒、銘酒。

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本日のお薦めが数種類あって、千葉の酒「甲子」の名前が見える。迷わず「甲子」でゆく。
つまみは「鶏皮ポン酢」のみで、ゆっくり味わう。
甲子の辛口だが爽やかな喉越しは、鶏皮によく合う。

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改めて満員の客を見渡すと、非常に若い女性が多いことに驚いた。
ホタルイカをつまみながら、しかも立ち飲みで、このお酒は甘いだのフルーティだのと騒いでいる。
世の中つくづく変ったものだ。

3連休の、あるささやかな一日。


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