南回廊 2011年04月28日 TV トラックバック:0コメント:16

せいざ

ILLUSTRATED BY NANTEI
清左衛門。
三屋清左衛門は海坂(うなさか)藩の用人であった。
用人とは藩主の側にあって様々な庶務を行う要職である。
あったと過去形になるのは、藩主の代替りを機会に家督を息子に譲り隠居したからだった。

藤沢周平の名作「三屋清左衛門残日録」はそんないきさつで始まる。

清左衛門はまだ五十二歳だが、三年前に妻を失くしてから、
隠居して悠々自適の晩年を送りたいと強く望んでいたのだった。
しかしいざ隠居してみると思い描いていた自由な解放感とはまったく逆の、
世間から隔絶されてしまったような感情に襲われるのだった。

その空白感を埋めてくれたのが、まだ町奉行として働いている親友の佐伯熊太や周りの人々である。
清左衛門の老練さと人柄を見込んで持ち込まれる、様々な揉めごとや困りごとを解決してゆくうちに、
なりたての隠居にも新しい暮らしと習慣が身についてきたのであった。

そして物語は藩の権力争いに、否が応でも引きずり込まれることになるのである。

この名作がNHKの時代劇スペシャル「清左衛門残日録」として、
14回のシリーズで放映されたのが平成5年のことだった。
この小説の映像化には最初、故藤沢周平氏の奥様が強く反対したといういきさつがある。

それは時代劇なのに派手な立ち回りが殆んど無く、
淡々とすすむ日常的な隠居生活の描写に、時代劇ファンが納得するかどうかを危惧したからだった。
しかしシナリオとキャスティング、そしてプロデューサーの熱意に映像化を承諾したのだという。

はっきり言ってこの「清左衛門残日録」は、藤沢周平作品を映像化したものの中では最高傑作である。
緊迫した剣の抜き合いや、派手な乱闘シーンといった見せ場がないかわり、
人間の心の機微を描く巧みさに、毎回かならず静かな感動を覚えるのだった。

その配役を挙げてみよう。
三屋清左衛門・・・・・・仲代達矢
佐伯熊太(町奉行)・・・財津一郎
里江(息子の嫁)・・・・南果歩
みさ(料亭の女将)・・・かたせ梨乃
他に
佐藤慶、山下真二、河原崎長一郎、平田満、寺田農、加藤武、中山仁、黒田アーサー、前田武彦・・・
喜多嶋舞、石野真子、あき竹城、江口ともみ、神津はづき・・・等々。
聞いただけでも厚みのある人選ではないか。

中でも仲代と財津のやりとりは、それだけでも至芸といってよく、
後半は半分がアドリブではなかろうかと思わせるほど、
自在な掛け合いを楽しんでいたように見えたほどだった。

ほんとうに、近年数少ない大人のための時代劇である。

この「残日録」の中で熊太がこんな話をする。
「木末に咲く芙蓉の花。谷間には寂として人無く、しかれどもふんぷんとして開きかつ落つ。
清左衛門が若い頃から好きだった王維の詩だ。清左とはそういう男だ」
それはとりも直さず藤沢周平の精神でもあった。

人目に触れないところで尊い仕事に身を捧げる大人もたくさん居る。
かと思うと声ばかり大きい人も居る。



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「忘れないということがいちばん被災者を励ます」
阪神大震災を経験した精神科医、中井久夫さんの言葉です。



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南回廊 2010年11月14日 TV トラックバック:0コメント:6

お龍
ILLUSTRATED BY NANTEI

お龍、極まる。
真木よう子。

大河ドラマ「龍馬伝」もいよいよ終幕に近くなった。
なかなか見ごたえのある大作だったと思っている。

画像もフィルム映画を意識したようで、
ときには粒子が粗く見えたり暗部が多かったりと、
ビデオ撮影とは思われないヤニ濃さもこころ憎い。

だが以前も書いたとおり映画やドラマの楽しみのひとつに、キャスティングがあるとすれば、
この「龍馬伝」のそれは、とてもスリリングであった。
そしてスリリングの最たる配役が「お龍」の真木よう子だったのである。

これまでのお龍役としては、昭和43年の大河ドラマ「竜馬がゆく」に浅丘ルリ子の名前がある。
他、映画や民放作品では夏目雅子や大谷直子、浅野温子などが演じているが、
それぞれが存在感のある役柄ではなく、花を添えた程度の印象しかなかったのだ。

しかし真木よう子には登場したとたん、これはもしかしたらと直観したのである。
笑われるかもしれないが、青みがかった白眼のせいでもある。
それは頑なでありながら、愛に飢えた眼と言ったらいいだろうか。

直観は裏切られるどころかはるかに超えて、
真木よう子は「お龍」そのものに変貌したのであった。

配役
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キャスティングの妙はまだまだある。
前にも挙げた原田泰三の不気味な近藤勇。
武骨で律儀な槍の名人、三吉慎蔵を好演する筧利夫。

近藤正臣の妖怪のような山内容堂や、精神分裂気味の将軍を演じる田中哲司などなど・・・。
そういえば最後に龍馬を暗殺する刺客、今井信郎には市川亀治郎が当てられているという。
一シーンのための何と贅沢なこと。

こりゃ、なんちゃあ見んといかんぜよ!

テーマ:大河ドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

南回廊 2010年09月12日 TV トラックバック:0コメント:4

ふたり
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AMADEUS
今もっとも注目を集める料理人がいる。
山本征治と奥田透。日本料理界の気鋭である。
山本は「世界のレストラン50」に日本料理店として初めて選ばれ、
奥田は3年連続ミシュランの三つ星という快挙を成し遂げている。

だが二人は対照的な料理人だ。
山本は天才の名をほしいままにする革命児なら、
奥田は伝統の王道に徹する包丁人である。

二人は四国の老舗割烹で共に修業した仲だ。
店が終わるといつも明け方まで料理のことや、
夢を語り合った盟友のような兄弟弟子であった。

2003年、二人はついに夢を果たす。
山本は六本木で「龍吟」を、奥田は銀座で「小十」を開いたのだった。
どちらも予約が殺到するようになるまで、そう時間はかからなかった。
ともにミシュランの高い評価も受けた。

だが奥田は、常に料理界に新風を吹き込む山本の背中が、
どんどん遠ざかるように思えたのだった。

「神様はあの才能をくれなかったですね。僕には」
ある時奥田は声をつまらせた。

ここで思い出すのが映画「アマデウス」である。
ご存知だろうが天才モーツァルトと、努力の作曲家サリエリの物語だ。
モーツァルトの才能の十分の一も与えられなかったと悲嘆したサリエリが、
ついには神を憎み、申し子であるモーツァルトの殺害を企てるという筋書きなのだが、
才能への嫉妬は、嫉妬の中でも厄介なものだなあ。
というのが観終わった後の凡才の感想であった。

さて、山本と奥田の関係はその後どうなったのだろうか。気になりませんか。

奥田の気持ちを折れさせた山本もまた、 奥田に畏怖を感じていたのである。
革新の旗手としてもてはやされる自分とは対照的に、黙々と王道を歩む奥田の深化を畏れたのだった。

山本は言う「もしかしたら奥田は料理史に大きな名を残すかもしれない」
だが二人には相手への嫉妬は微塵もなかったのである。
尊敬と信頼だけがあるのだった。

二人はよくお互いの店を訪ね合うが、その日は一番緊張すると口を揃えて言う。
しかし二人とも隠し事は一切しない。
新しい料理の考えや技術を全て話し、厨房の隅々まで見せるのである。

山本征二40歳。奥田透39歳。
それぞれ葛藤はあるかも知れないが、
深いところで信頼し合える絆とはなんと素晴らしいものだろう。


*この記事はNHKドキュメンタリー「しのぎあい、果てなき絆」に基づきました。









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南回廊 2010年07月14日 TV トラックバック:0コメント:6

はらだ
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注目。
原田泰三

映画やTVドラマを見る楽しみの一つに、
キャスティング、いわゆる「配役」がある。

あの男優がこんな役をやるんだって!?
意表をつかれる配役には大いに期待が膨らむ。
もちろん内容が伴わなければ落胆に替るが。

その意表とは殆んどが脇の役である。
理想の父親といわれる俳優が冷酷を演じ、
悪役で鳴らした男が泣かせる役になる。
かと思うと無名の人が強烈な印象を残す。

脇役のキャスティングによって、
ドラマは深みを増すこともあれば、浅薄になることもある。

最近のキャスティングの妙は、ここに挙げる原田泰三だ。
ご存じの方も多いだろう。
コント・グループ「ネプチューン」のメンバーである。

その原田泰三が、大河ドラマ「竜馬伝」で、
近藤勇を演じている。
結論からいうと歴代の近藤役の中で出色の「配役」である。

夥しい血を浴びた殺戮集団の統領らしい不気味さがあり、
出演シーンの少なさにもかかわらず、
得体の知れない恐怖感で画面を圧している。

原田泰三はこれが初めてのドラマ出演ではない。
同じく大河「篤姫」の大久保一蔵が初役なのだが、
単に演技だけではない存在感があり、
南亭は大いに注目したのだった。

その後、主役を射止めたりと一挙に評価は高まっているが、
引っ張り回された挙句の、
手慣れた役者にだけはなってもらいたくないと願っている。

しかし、誰が原田泰三の素質を見抜いてキャスティングしたのだろうか。
プロの慧眼には恐れ入る。














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