地元ではしご 2017年06月24日 酒場 トラックバック:0コメント:22

酒場漂流記(五の巻)。

月曜日夜のBS-TBSに「酒場放浪記」という番組がある。
俳人でもある吉田類氏が、東京を中心に各地の酒場を巡るという内容で、
酒呑みには垂涎ものの番組である。

かくいう私も現役時代は放浪三昧だった。
出張が多かったせいもあって、全国さまざまなところで居酒屋の暖簾をくぐってもいた。

定年後は一変、夜の巷に出ることは滅多になくなり、ひたすら家呑みの爺さんになってしまった。
それでもなんだかんだと理由をつけては年に数回、ネオンを浴びに出かけているが、
往時に比べるとそう遠くもない酒場と酒場の間を、何ヶ月もかけて漂流しているようなものである。

その侘びしい漂流の軌跡をご覧になっていただきたい。
久々の第五回は地元飲みの話である。

ところで、私は地元で一人で飲むということは殆んどない。
ただし、ここに支社がある某社の人々とはよく飲んだ。

支社との会議は大概夕方が多かったせいもあるし、
また私も支社の連中も故意に夕方の会議を予定表に入れるようにしていたのである。
いわばそのまま酒場になだれ込みたいがための確信犯的な会議だったといっていい。

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そのうちの一軒が家庭料理の「福酔」。
酒はもちろんだが、料理が美味しくて非常に落ち着ける店である。
だがやはり定年後は足を運ぶことが少なくなり、年に二三回という有り難くない客になってしまった。

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ここの女将は俳人でもあり、お客は俳句愛好家も多い。
二階にある店の窓には、女将がその月に詠んだ俳句が飾ってあり、
昼間その前を通る際は必ず見上げて「やってますねー」と独語するのが常である。

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久しぶりに訪れたのは秋も深まった10月の半ば。
カウンターの上には大皿に季節の惣菜が盛られて並べられている。
これでもうお腹がぐうと鳴ってしまう。

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先ずは酒と突き出しが出て、ちびちびやりながら大皿を物色するのである。
熟考の末、でもないが椎茸をいただく。ふっくらと煮えた椎茸の得もいえぬ香りと食感、そしてお味。
蒟蒻の煮しめもいただこうではないか。

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必ず注文する豚バラ肉の串焼。
酒は房総の地酒「梅一輪」である。

ここで小一時間飲んだ後、地元では珍しくはしごする。
というのも気になる店があるからだ。

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「福酔」のすぐ裏手にある「金角」もお付き合いが長い。
ここのマスターが胃がんの手術をしたという。
なかなか機会が無いので、お見舞いがてら立ち寄ってみようと思ったのだ。

思ったより元気なマスターの顔を見てほっとする。
マスターはというと大げさなほど喜んでくれて、
通常のつまみの他に、今は珍しい青柳の刺身を出してくれた。

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「こんないい青柳は、滅多に口にできないよ」
その言葉どおり、磯の香りがたっぷりの青柳を含むと目が宙に浮いてしまった。

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顔写真OKなのは、マスターがオールデイズのボーカリストでもあり、
毎土曜日の深夜、あるライブの店に出演しているからだそうだ。
胃を半分失ったマスターに、それでも「無理しないで」とはなんとなく言えない。

一度は聴きに行かなければと思うのだが、土曜の深夜に出歩く齢でもないので、
「そのうち、必ず」なんて曖昧な口約束をしている。


何年ぶりかの地元はしごは、昨年10月14日のことだった。
それからちょうど一ヵ月後、私は肺炎で入院する羽目になったのだが、
飲み納めの予感がしたのかも知れない。




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馬車が来るまで 2017年05月09日 酒場 トラックバック:0コメント:30

夜のラ・フォル。

近年は日・祝日に開いている飲み屋が目立って少なくなってきた。
酒場で働く人たちにとっては喜ぶべきことかもしれないが、わがままな呑ん兵衛は、つい文句を言いたくなる。

せっかく花の東京へやってきたからには、渋い居酒屋でちびちびやりたいではないか。
その渋い居酒屋が真っ先に、週休二日を励行し始めたのである。
盛り場といえど例外ではなく、賑やかに営業しているのは殆どが大型の大衆酒場である。

大衆酒場が悪いと言うわけではないが、だいたいが独り呑みの南亭。
出来れば小じんまりした居酒屋のカウンターで、哲学的かつボヘミアンな酔いに浸りたいものだ。
何を言いたいのか自分でもわからんが・・・わはははは!

はた!と思い出したのは東銀座である。
ここは歌舞伎座を控えている土地柄、休日でも夜の公演を見終わったお客さんを目当てに、
割烹、小料理屋など粋な小店が何軒か暖簾を出しているのだ。

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そんな東銀座の裏通りに、杉玉を下げた店を見つけた。近寄ってみると看板に「三ぶん」とある。

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杉玉に「三ぶん」?これは演舞場の近くにあった、立ち飲み割烹の分店ではなかろうか?
女将の話では矢張り「三ぶん」の椅子席店として2年前に開店したそうだ。

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カウンター7席、4人席が2卓と南亭好みの小さな店で、真新しい白木のカウンターが清々しい。

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いきなり驚かされたのは、先付け?に「うこん」と「黍酢」そしてとろろ芋を出されたことだ。
「これで胃を落ち着かせて、美味しいお酒を楽しんでくださいね」と、女将。

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お品書きには垂涎の肴が並んでいる。
「渡り蟹の生内子」「塩ウニ」、今日のお奨め「うおソーメン」?・・・頂きます!
写真に撮らなかったが、勘八の造りも追加。
酒は加賀白山の銘酒「菊姫」濁り酒ときて、言葉も無し。

帰りは嫌でも八重洲を通過する。
八重洲にくると何故か〆鯖を食べたくなるから不思議である。
落語ではないが「〆鯖は八重洲にかぎる」でもあるまいに。。。

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ただ、八重洲で旨い〆鯖を出してくれた酒場も、ご多分に漏れず週休二日になってしまった。
仕方がないから大衆酒場で我慢しよう。
まあまあの〆鯖が食える「美少年」。わしの代名詞のような店名でもあるし・・・わははは!

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〆鯖だけではナニだから、後から鴨のスモークを追加。
ともあれ、これで思い残すことなし。

こうして盛りだくさんな一日を終えたのだが、7ヶ月ぶりの外飲みも、
まだ医師から全解禁されているわけではないので、酒はぐっと控えて二軒で二杯。
いつもだったらバーで締めくくるのを我慢して、迎えの馬車を呼んだのでありました。




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馬と鯨 2016年08月09日 酒場 トラックバック:0コメント:16

酒場漂流記(四の巻)。

月曜日夜のBS-TBSに「酒場放浪記」という番組がある。
俳人でもある吉田類氏が、東京を中心に各地の酒場を巡るという内容で、
酒呑みには垂涎ものの番組である。

かくいう私も現役時代は放浪三昧だった。
出張が多かったせいもあって、全国さまざまなところで居酒屋の暖簾をくぐってもいた。

定年後は一変、夜の巷に出ることは滅多になくなり、ひたすら家呑みの爺さんになってしまった。
それでもなんだかんだと理由をつけては年に数回、ネオンを浴びに出かけているが、
往時に比べると侘びしく漂流しているようなものである。

そんな酒場漂流の中から、記憶に残る酒場を紹介しようと思う。
その四回目は・・・
馬肉酒場と鯨肉酒場。

江戸時代、四つ足の肉を食べることは御禁制だったが、
大川を渡った両国・深川では「山鯨」の名で、猪や馬の肉を供する店が現れた。
川向こうまで奉行所の目が届かなかったこともあり、庶民は「薬喰い」と称して続々と両国橋を渡ったのである。

最近まで深川には、そんな歴史ある馬肉料理屋が二軒あったが、
今は森下町にある「みの屋」が残るだけになってしまった。
と同時に敷居の高い店になったので、ここ二十年来は暖簾をくぐったことがない。

もう一軒、浅草田原町の明治時代からという馬肉屋「マサシ」にはよく訪れた。
スポンサーが田原町にあったこともある。
それも遠い過去のことになり、馬肉の味をすっかり忘れてしまった。

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そんなある日、新橋で久しぶりに馬肉酒場と遭遇したのである。
新橋は烏森神社近くの路地に入ったところで見つけたのが、
「馬並み家」というややアブナイ名前の店であった。

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さっそくお薦めの馬刺し3点盛りと焼酎「佐藤麦」を頼む。
突き出しはモツ煮、それにどういうことか「赤まむしドリンク」。
????!

久しぶりの馬刺しは、さっぱりまったりの舌触りで、
特製のタレで頂くと肉の甘味がじんわりと湧いてきて言うことなし。

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次は馬肉カルビの炙りを注文する。
脂身がしつこくなくて、ミディアムに焼いて食べるといくらでもいけそうだ。
最後に意味深な例のドリンクも一気に飲み干したです。 ナハハハ・・・


鯨といえば昔は居酒屋で、鯨ベーコンが通しとして出されたほど安価だった。
新宿西口の思い出横丁では、大きな鯨カツ「ワラジ」がラーメン並の値段で出されたりと、
鯨は庶民の懐に優しい食べものだったのだが、捕鯨が制限されるにつれて高級食材となっていった。

鯨肉を諦めてから何十年になるだろう。
そんな時テレビで浅草の鯨屋が紹介されているのを見て、今生の思い出にしたいと思ったのである。

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その鯨料理「捕鯨船」は浅草六区の裏道にある。
浅草芸人がよく通う店で、中の提灯には大宮デン助、コロッケ、なぎら建一、そして《びーと・たけし》などの名前も見える。

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先ずは王道の「鯨ベーコン」と冷やを頼む。
久しぶりの鯨ベーコンを噛みしめる。

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お次は珍味の「さえずり」そして「皮」を所望。
「さえずり」というのは鯨の舌のことで、関西では串焼きにして供されるが、
刺し身で食べるのは生まれて初めてだ。

ダシ醤油と辛子でいただくその味は、絶妙というしかない。
ほどよい歯触り舌触り、その上品な脂肪が喉を下るときの至福感といったら!
暫くは目が天井を彷徨うばかりであった。

奥にあるのはこれまた人気という「牛煮込み」。
なにせ目の前にある大鍋でぐつぐつ煮えているものだから、ついつい頼んでしまう。
絶品の味噌煮込み。これだけでも、酒のお伴には充分である。

こうして馬肉と鯨肉を堪能し、今生に思いを残すことは無くなった。

というのはウソである。



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やはりね~ 2016年05月09日 酒場 トラックバック:0コメント:24

夜のラ・フォル。
土、日、祝日はお休みの酒場が多い。
特に老舗の小さな居酒屋なぞは、行ってみると休業だったというところが増えてきた。
営業しているのは「和民」とか「土間土間」といったチェーン店ばかりで、
それも悪くはないのだが、使い込んだカウンターで静かに呑みたいと思う私にとって、大袈裟にいうと生き辛い世の中になった。

ラ・フォル・ジュルネもあっという間に終ってしまい、さて、何所で呑もうかと悩むことしきり。
とりあえず、必ずやっているだろう某所に行ってみよう。

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有楽町に出て泰明小学校の道に入る。突きあたりのガード下に銀座界隈とは思えない一画、「ぶんか横丁」がある。
日本各地の産地直送料理を集めた居酒屋街という触れ込みだが、木造の景色が先ずいい!

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『猥雑』な風景が大好きな私にとって、魅惑的な居酒屋街である。

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過去二三回、呑み回ったことがあるが、特に気に入ったのは「貝○」という貝専門の店だ。
今夜も迷わず「貝○」の席につく。

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さまざまな貝を扱っている中で、即座に赤貝とつぶ貝の刺し身を注文する。酒は旭川の「大雪の蔵」。
北海道の酒はそう多くの銘柄を飲んだわけではないが、いずれもすっきりとした喉越しが印象的だ。

この「貝○」で驚嘆したのが、「貝肝のニンニクバター焼き」。
視線が宙をさまよう味というのは、こういうことを言うのだろう。
今夜の目的はもうこれに集約しているといっても過言ではなかったのだが・・・

ああ!これも振られてしまった。もうメニューから外したという。
そこでちょっと気になった「炙り貝のカルパッチョ」なるものを頼んでみた。

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赤貝、鳥貝、ほっき、帆立貝柱などを炙り、ガーリックオイルで炒めた何かと、トビっ子を振りまいたようだが、
いやはや、この香ばしさはどうだ!日本酒にもピッタリで、言うことなし。

この「ぶんか横丁」には貝の他、魚、牛、豚、鶏の専門店と餃子の店が並んでおり、それぞれをハシゴする客も多い。
私も貝を食べた後、焼き肉店に移ったことがある。
しかし今夜はこれまでにしよう。

再び外堀通りに出て交差点を渡ると、バー「ルパン」が近い。
太宰治や織田作之助から野坂昭如に至る作家が出入りしていた、伝説的なバーである。
日曜、祝日は休みと聞いているが念のため文芸春秋の露地を覗いてみる。

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すると嬉しや、看板の灯りがついているではないか。
マスターの話によると、連休の長い年は週半ば開けることがあります、ということだった。

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相変わらず注文するのは、バーボン。
太宰治を気取って髪を掻き上げようとしたが、掻き上げる髪の無いことに気付いた。

空席の目立つ店内に、一人、二組と徐々にお客が入ってきた。
一杯のバーボンを時間をかけて呑み干し、今年の祭典も恙なく終了したのである。

夏服



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粋に(其の弐) 2015年11月09日 酒場 トラックバック:0コメント:30

あふたー。

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寄席を出た脚は、迷わず浅草に向かいます。
是非行きたい店がありましてな、若い頃ちょくちょく訪れた思い出の店です。

浅草駅から国際通りに出て「はなやしき」方向へ行きますと、言問通りにぶつかります。
通りを渡って一本目の露地に風情のある建物が見えますが、ここが鍋料理と鯨料理で人気の「一文」ですな。
「一文」の由来はお店の番台で木札(一枚一文=百円)と両替しまして、
料理や酒を注文するとその木札で支払うという、洒落た仕組みからきているそうですな。

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るんるんと辿りついた「一文」ですよ。それが開店早々なのに『只今、満員』ときてやがる!
「カウンターの隅でもいいから、おねがい」てえと、『予約のお客さんで一杯なんですよー、すみませんね』。
「そこんとこを何とか」『・・・・すみませんね』「さいですかぁ、何時頃空くんですかね」『さあ・・・?』

ああ、そうですかい・・・そんなご大層な店になってしまったんですかい(ぶつぶつと小声で)。
ま、あたしが迂闊だったわけなんですがね。

出だしから、すっかり水を差された南亭。
しばらく途方に暮れておりました・・・

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と、鯨料理で思い出したところがありまして、雷門の方角に戻ります。
浅草六区もすっかり様変わりしましたなあ。
再開発が進んでいるらしく、新しいビルばかりが立ち並んでいるではありませんか。

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この途中を左に入り、少し歩きますと鯨料理の「捕鯨船」に出くわします。
浅草芸人がよく通う店で、中の提灯には大宮デン助、コロッケ、なぎら建一、
そして《びーと・たけし》などの名前も見えます。

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具合よくカウンターが空いていたものですから、どっこいしょと掛けまして、
先ずは王道の「鯨ベーコン」と冷やを頼んだものです。
久しぶりの鯨ベーコンです。昔はどの居酒屋でも手軽なツマミとして人気でしたが、今じゃ高嶺の花ですからな。
心して噛みしめたものでございますよ。

お次は珍味の「さえずり」そして「皮」を所望しましょうか。
「さえずり」というのは鯨の舌でして、関西では串焼きにして供されますが、
刺し身でいただくなんてのは、生まれて初めてでして。

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ダシ醤油と辛子でいただくその味は、絶妙でありましてな。
ほどよい歯触り舌触り、その上品な脂肪が喉を下るときの至福感といったら、ああた!
暫くは目が天井を彷徨うばかりでございます。

奥にあるのはこれまた人気という「牛煮込み」。
なにせ目の前にある大鍋でぐつぐつ煮えておりますのでな。ついつい頼んでしまいます。
貧しかった駆けだしの芸人にとって、安くて旨い「牛煮込み」はなによりだったのでありましょう。

すっかり「一文」の腹立たしさも吹っ飛んだ南亭、次はお馴染「神谷バー」を目指します。
浅草といえば必ずここで仕上げとする南亭でございます。

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ここは、明るいうちからシルバーな方々が飲んでおりまして、
たいがい相席になるものですから、知らない人同士で会話が弾むようになるのですな。
おかげで思わず酒が進んでしまうことも度々で、お店にしてやられたような気分にもなるのでありますよ。

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飲み物は当然「電気ブラン」に決めております。
この電気ブラン、なんでもブランデー、ジン、ワインなどを配合した酒だといわれてますが、
その内容の詳細と作り方は未だに謎とされているそうで。

それまで何杯かきこしめした南亭には、二杯が限度という代物でもあります。

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こうして浅草もおさらばの時間となってしまったのですが、
六区の裏にある場外馬券場の通り、そこにずらりと並ぶ屋台酒場は、
これからが佳境を迎えるようでして、なんとも後ろ髪引かれる風景でしたなぁ。

冬麗鯨長者の墓碑十基
(南亭)

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