無病息災 2017年01月08日 伝統 トラックバック:0コメント:20

はしご詣で。

大磯行きを止めた今年の正月は、穏やかといえば穏やかだが何か物足りなくて、
主治医から遠出や人混みを、なるべく避けるように言われていたのに、遠方の神社仏閣へ足を伸ばしてしまった。

先ずは成田山。
ここに詣でるのは毎年恒例になっているが、来てみると病み上がりとしては矢張り尻込みしてしまう。
長い石段を登りきることができるかどうか、自信がないのである。
念のため酸素ボンベは持参してきたが、この人ごみでは邪魔にされるだけだろう。
結局、総門から礼拝しただけの初詣となった。

7-0103A.jpg

成田山に毎年詣でるのは、鰻を食べたいという理由もある。
別に成田でなくても美味しい鰻屋はそこらにあるのだが、
「目黒のさんま」よろしく「鰻は成田」と刷り込まれてしまったようだ。

7-0103B.jpg

ただ、両側から鰻の煙が吹き付けるような参道は、正月気分と相まって鰻に舌鼓を打つには、
おあつらえ向きの設えだと思うのである。
(鰻重の写真はいつも同じだし、読者の中には鰻がお嫌いの方もいらっしゃるようだから、写真は止めておきませう。)

次いで深川不動尊。
成田まで行ったものの、あれでは参詣したことにはならないので、
改めてきちんと初詣しなければ、ということで思いついたのが深川不動であった。
ここは坂も階段もないし、なにより馴染みの深いお不動さんだったからである。

7-0105A.jpg

深川不動は写真で見るとおり、成田山の東京別院となっている。
元禄年間、不動尊信仰が広まるとともに、成田山新勝寺のご本尊、不動明王を江戸で参拝したいという気運が高まり、
元禄16年(1703年)、深川永代寺境内、現在の深川不動堂付近で始まった出張開帳が深川不動の起こりだという。

7-0105B.jpg

7-0105C.jpg

7-0105D.jpg

三が日も過ぎた平日というのに、ご覧の人出である。

そして富岡八幡宮。
深川不動に隣接して、江戸で最も大きい八幡さまがある。
寛永4年創建の富岡八幡宮は深川に住んでいた頃、娘のお宮参り、または七五三などでお世話になった。

7-0105E.jpg

7-0105F.jpg

不動明王と八幡さま。
数分足らずの移動で参拝できるという有難さである。
こうして初詣のはしごをしたわけだが、今年ほど「無病息災」を真剣に願った年はなかった。

7-0105G1.jpg

昼ごはんは、昔だったら「深川丼」が多かったが、この頃は京漬物の『近為』一辺倒になった。
お不動さん参道の奥にある、京漬物と西京漬けが評判の店である。
ただ、一時間待ちは当たり前の人気店だから、なるべく遅い時間がお勧めだ。
この日も初詣客が多いことは承知だったが、2時を過ぎているというのに10人ほど順番待ちをしている。

7-0105H.jpg

ここは、料理を待っている間、京漬物の鉢が焙じ茶と一緒に出されるが、
この漬物、なんとお代わりができるのだ。
お代わりの出来る先付けというべきか。

7-0105I.jpg

この日頼んだのは《ぶぶづけ》である。
何度かいろいろ食べた中で、この《ぶぶづけ》が一番お得で楽しいメニューだったから。

7-0105J.jpg7-0105K.jpg

三段の棚には上から、切り干し大根、南高梅と昆布、鮭の黄金漬け、となっていて、
見た目楽しく、もちろん味も言うことなしの京ご飯である。

7-0105M.jpg

お不動さんの参道には、飲み屋も多い。
立ち飲み屋では仕事始めのサラリーマンたちが、明るいうちから出来上がっている。

7-0105L.jpg

ある店先では《獺祭》の甘酒で客を釣っていたりと、呑ん兵衛の南亭には非常に辛い光景だったが、
あの悪夢のような、日に何回もの点滴を思うと、一挙にその気は失せるのであった。

「無病息災、くわばらくわばら・・・」




スポンサーサイト

テーマ:日本文化 - ジャンル:学問・文化・芸術

おわら 2016年08月31日 伝統 トラックバック:0コメント:22

おわら

越中おわら風の盆
越中八尾は富山駅から高山線で20分、人口二万人ほどの小さな町である。

その越中八尾といえば、おわら風の盆。
風の盆は最も静かで幻想的な盆祭りかもしれない。

静かといえばこの風の盆ではマイクは一切使われていない。
だから町ごとの音曲も遠くから近付いてきて、 目の前を通り過ぎると闇の中に消えてゆくような、
なんともいえない余韻に包まれるのである。

踊りは優美で、歌も音曲にもそこはかとない哀愁がある。

特に胡弓を使うのは全国でも珍しく、太棹の三味線を従えて啜り泣くように鳴り出すと、
菅笠を目深に被った若い男女が、風のように舞い始めるのだ。
菅笠から覗く顔半分とうなじは、 ぼんぼりと家々からの柔らかな光を受けてはっとするほど美しい。

中には少女らしい姿も何人か見受けられる。
八尾の町では生まれて歩けるようになると、誰でも「おわら」を踊り始めるといわれているが、
まだ中学生ぐらいだろうに、流れるような手振りは大人にひけを取らない艶がある。

「おわら」は女は女踊り、男は男踊りと振り付けが分かれていて、しばらくは別々に豊年の祈りを舞ううちに、
やがて男女が慕い合い忍び合う恋情の踊りになってくる。



実際、民謡おわら節の内容は、ほとんどが叶わぬ恋の歌である。
《見たさ逢いたさ想いがつのる 恋の八尾はオワラ雪の中・・・》
秘めやかな情念はかえって胸を熱くする。

この艶美な民謡を祭りの本番で歌うのは、何十年も歌い込んだ人たちに限られている。
越中おわら節は民謡のなかでも難曲中の難曲といわれているが、
まず音階がとんでもなく高くしかもゆるやかな拍子なので息継ぎにも大層苦労するのだ。

だからそれなりの訓練と経験が必要になるのだが、
越中では八尾を中心に子供の頃から踊りはもちろん、「おわら節」に慣れ親しむ習慣があったことで、
その素晴らしい声の伝統を守ってきたのだった。

私はこれまでに風の盆には二回しか行ってないが、
一番忘れられない光景は東の空が白む頃。

踊り疲れた男女が、二人三人と我が家を目指して去ってゆき、
最後に人影が少なくなった朝もやの中を、三味線は太い拍子を刻みながら街角の左へ、
胡弓はひたすら楽器を泣かせながら、右へと消えてゆく情景である。

瓦屋根に朝日が鈍く反射しはじめると、八尾の町は遅い眠りにつく。

風の盆は毎年9月1日から、三日三晩訪問者を魅了してやまない。


※この記事は俳句と映像は別として、最初載せた文章を毎回引用しています。
風の盆を語るには残念ながら私の筆力では、これ以上のものが書けないからです。
でも少年時代を過ごした故郷、富山での最も美しい記憶、おわら風の盆。
秋風が立つ頃になると、どうしても語らずにはおれなくなるので、繰りごとのように書いてしまうのです。

テーマ:伝統芸能 - ジャンル:学問・文化・芸術

粋に 2015年11月08日 伝統 トラックバック:0コメント:34

記念日。
(2015)

十一月は南亭の誕生月ですが、いつしか周りから忘れ去られております。
なのでこの月はナンテイが南亭に、コンサートチケットと居酒屋券をプレゼントするという、
ややこしいことが続いているわけでして。
・・・11月5日のような・・・

今年も有難く頂戴したのですが・・・。
今回はコンサートではなく、日本の芸能を楽しんでくれたまえ。
ということで考えた末に、先ずやってきたのが歌舞伎座でございます。

5-1106.jpg

十一月から顔見世大歌舞伎が興行されておりまして、昼夜七つの演目を見れるわけですが、
なんといっても海老さまこと市川海老蔵の「若き日の信長」。
生の海老さまをこの目にするのは初めてでして、これはどーしても外せませんな。

ところで歌舞伎には一幕見という嬉しい席があることを、ご存じでしょうか。
何話もある演目の中から、贔屓の役者が出ているものだけ見ることが出来るというので、
全部を見る時間の無い方、お金の無い方には有難いシステムなのでございますよ。

5-1106A.jpg

ただ一幕見席は最上階の4階で、舞台が非常に小さく見えるものですから、
慣れた方はオペラグラスを持参でいらしてますな。

5-1106B.jpg

南亭も当然一幕見の席に座ります。
「若き日の信長」は新作歌舞伎で、《たわけ》と呼ばれていた信長が家臣から不信を買いながらも、
桶狭間を目指して出陣するまでのお話しでして、海老さまの立ち居姿とずしりと響く声の見事さに、
惚れぼれと見入ってしまった南亭でございます。
(「上演中は撮影お断り」の中でひっそりとシャッターを押したものです。なにとぞご内密に願います)

そして最後、出陣の前に舞う有名な謡曲「敦盛」のシーンには、
不覚にも目がしらが潤んできたのでございますよ。

約一時間二十分、存分に海老蔵を堪能して千三百円ですからな。
海老蔵に限らず猿之助、染五郎、勧九郎、時蔵、梅玉といった《若手》の台頭が楽しみな歌舞伎界。
一幕見が病みつきになりそうです。

一幕見といえばこんな通もいらっしゃるようで。
贔屓の役者が出る演目の、最も見せ場のシーンだけ駆けこんで、
「・たやっ!」などと掛け声をかけるだけで帰る凄腕の方がいるという。
ちなみに「・たやっ!」とは「成田屋」のことだそうで、市川一門の屋号でございます。
この日も、そんな通様が何人か、一幕見席から絶妙の掛け声を発しておりました。

5-1106-1.jpg
5-1106-2.jpg

なお、初めて知りましたがこの新しい歌舞伎座の屋上には、庭園と茶房がございまして、
開演までの待ち時間をここでゆっくりなさる方も多いようです。

5-1106C.jpg

さて、次に向かったのは上野でございます。
松坂屋の向かい角に「上野広小路亭」という200席ほどの小さな寄席があります。
今、売り出し中の桂文月がトリを取るというので、やってきたわけです。

演目は定番中の定番「とき蕎麦」でしたが、結論から申しますといただけません。
はっきりいいますと面白くないのでございます。
むしろその前にやりました三遊亭とん馬の「小噺づくし」、桂伸治の「酔っ払い」のほうが大受けだったようです。

5-1106D.jpg

平日の昼下がりに小屋のような寄席に来るというお客さんは、耳の肥えた方が多いようでして、
会場の空気は正直なものでございます。
文月師匠の実力はこんなものではないでしょうが、簡単な噺ほど難しいということですな。

さて、寄席を出た南亭は・・・
もうお判りでしょう。

そのお話は次に。


テーマ:日本文化 - ジャンル:学問・文化・芸術

おわら 2015年08月31日 伝統 トラックバック:0コメント:20

img079.jpg
きぬぎぬ(後朝)=衣を重ね掛けて共寝をした男女が、翌朝別れるときそれぞれ身につけるその衣。または男女の別れ。

風の盆。
越中八尾は富山駅から高山線で20分、人口2万人ほどの小さな町である。

その越中八尾といえば、おわら風の盆。
風の盆は最も静かで幻想的な盆祭りかもしれない。

静かといえばこの風の盆ではマイクは一切使われていない。
だから町ごとの音曲も遠くから近付いてきて、 目の前を通り過ぎると闇の中に消えてゆくような、
なんともいえない余韻に包まれるのである。

踊りは優美で、歌も音曲にもそこはかとない哀愁がある。

特に胡弓を使うのは全国でも珍しく、太棹の三味線を従えて啜り泣くように鳴り出すと、
菅笠を目深に被った若い男女が、風のように舞い始めるのだ。
菅笠から覗く顔半分とうなじは、 ぼんぼりと家々からの柔らかな光を受けてはっとするほど美しい。

中には少女らしい姿も何人か見受けられる。
八尾の町では生まれて歩けるようになると、誰でも「おわら」を踊り始めるといわれているが、
まだ中学生ぐらいだろうに、流れるような手振りは大人にひけを取らない艶がある。

「おわら」は女は女踊り、男は男踊りと振り付けが分かれていて、しばらくは別々に豊年の祈りを舞ううちに、
やがて男女が慕い合い忍び合う恋情の踊りになってくる。



実際、おわら節の内容は、ほとんどが恋の歌である。

おわら踊りの 笠着てござれ 忍ぶ夜道は オワラ 月明かり
お風邪召すなと 耳まで着せて 聞かせともなや オワラ 明けの鐘
針の穴から 浮名がもれる 逢うて逢われぬ オワラ 人の口
粋な小唄で 桑摘む主の お顔見たさに オワラ 回り道
別れが辛いと 小声で言えば しめる博多の オワラ 帯がなく
仇な色香に 迷いはせねど 実と情けにゃ オワラ つい迷う


この艶美な謡を祭りの本番で歌うのは、何十年も歌い込んだ人たちに限られている。
越中おわら節は民謡のなかでも難曲中の難曲といわれているが、
まず音階がとんでもなく高くしかもゆるやかな拍子なので息継ぎにも大層苦労するのだ。

だからそれなりの訓練と経験が必要になるのだが、
越中では八尾を中心に子供の頃から踊りはもちろん、「おわら節」に慣れ親しむ習慣があったことで、
その素晴らしい声の伝統を守ってきたのだった。

私はこれまでに風の盆には二回しか行ってないが、
一番忘れられない光景は東の空が白む頃。

踊り疲れた男女が、二人三人と我が家を目指して去ってゆき、
最後に人影が少なくなった朝もやの中を、三味線は太い拍子を刻みながら街角の左へ、
胡弓はひたすら楽器を泣かせながら、右へと消えてゆく情景である。
その背中におわらの粋と誇りを見るような気がするのだ。

瓦屋根に朝日が鈍く反射しはじめると、八尾の町は遅い眠りにつく。

風の盆は毎年9月1日から、三日三晩訪問者を魅了してやまない。


テーマ:伝統芸能 - ジャンル:学問・文化・芸術

南回廊 2014年11月26日 伝統 トラックバック:0コメント:22

返し胴。
毎年楽しみにしている、全日本剣道選手権大会。
今年も日本武道館で開催された。
11月3日のことである。

43年ぶりに学生剣士が優勝を飾り、大きな話題を呼んだ。

その決勝戦もさることながら、経験、実力ともに格上とみなされていた畠中宏輔五段(27歳)との準決勝。
決め手としては難しいといわれる『返し胴』で一本を取った技と《残心》の美しさは、
思わず感動の声を挙げてしまうほどだった。
『返し胴』とは面を取りに来た相手の竹刀を受けつつ、空いた胴を素早く狙う技である。

その若き剣士の名は竹ノ内佑也(21歳)、剣道四段。
筑波大学の3年生だ。

まずはその素晴らしい『返し胴』をご覧いただこう。

準決勝

当然だが決勝戦も。

決勝

私が何故剣道に惹かれるのか。
そのわけは、こちらを読んでいただきたい。

ただ一撃



テーマ:日本文化 - ジャンル:学問・文化・芸術

 » »