南回廊 2010年09月29日 俳句 トラックバック:0コメント:4

俳句21

平家伝説
壇ノ浦で滅びた平家ゆかりの者が、
追捕の目を逃れて落ちのびてきたという隠れ里。

そんな伝承を持つ村落は、全国に数えきれないほどある。
西国や近畿、北陸ならまだ頷けるが、
東北は福島県にまで及んでいるとなると驚きである。

関東の北端栃木県にしても、その名も平家平という地名があり、
また湯西川温泉では毎年6月に「平家祭」を催すほど、伝承を大切にしている。
そのほかにも塩原、川俣など、隠れ里を名乗る村落には事欠かない。

ほんとうかどうかは別にして、平家の末路に同情する民衆の心が、
全国各地に落人伝説を生ませたのかもしれない。
それは義経が蒙古へ逃れて、ジンギス・ハーンになったという、
荒唐無稽な話と根は同じだろう。

ところで栃木県には、いい温泉が多い。
鬼怒川、那須塩原は別格として、川治、湯西川、川俣。
平家平、加仁湯、女夫淵など、どれも趣のある名湯ばかりだ。

なかでも女夫淵(めのとぶち)はお奨めの秘湯だ。
渓流沿いに大小十二の露天風呂を持つ山奥の一軒宿である。
しかも混浴である。残念ながら三度行ったうち、
目の保養になったことは一度もない。

夜気が迫ってくる山間の湯に浸っていると、
笛の音が聞こえるような気がする。
これは名手だった平敦盛が奏でているのではあるまいか。
平家伝説のことを散々聞かされた後だけに、
そんな幻想すら沸いてくるのである。

夜は猪鍋などの山家料理と「どぶろく」を一本頼む。
「どぶろく」はずっと密造酒の代名詞であった。
隠れ里でひっそりと造られ飲まれてきた酒でもある。

もちろんこの宿の「どぶろく」は怪しい筋ではないが、
どんな酒とも違う籠った酔いに見舞われたのであった。



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テーマ:俳句 - ジャンル:小説・文学

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