南回廊 2012年08月31日 伝統 トラックバック:0コメント:32

俳句61


越中おわら風の盆。
越中八尾は富山駅から高山線で25分、古くから栄えた街道の町である。

その越中八尾といえば、おわら風の盆。
風の盆は最も静かで幻想的な盆祭りかもしれない。
踊りは優美で、音曲にはそこはかとない哀愁がある。

特に胡弓を使うのは全国でも珍しく、太棹の三味線を従えて啜り泣くように鳴り出すと、
菅笠を目深に被った男女が、風のように舞い始めるのだが、
不思議なことに菅笠から覗く顔半分は、 ぼんぼりと家々からの柔らかな光を受けて、
老いも若きもはっとするほど美しく見えるのだ。

女は女踊り、男は男踊りと振り付けは分かれていて、しばらくは別々に豊年の祈りを舞ううちに、
やがて男女が慕い合い忍び合う恋情の踊りになってくる。

実際、民謡おわら節の内容は、ほとんどが叶わぬ恋の歌である。
《見たさ逢いたさ想いがつのる 恋の八尾はオワラ雪の中・・・》
秘めやかな情念はかえって胸を熱くする。



この艶美な民謡を祭りの本番で歌うのは、何十年も歌い込んだ男たちに限られている。
越中おわら節は民謡のなかでも難曲中の難曲といわれているが、
まず音階がとんでもなく高くしかもゆるやかな拍子なので息継ぎも一苦労である。

だからそれなりの訓練と経験が必要になるのだが、
越中では八尾を中心に子供の頃からおわら節に慣れ親しむ習慣があったことで、
その素晴らしい声の伝統を守ってきたのだった。

私はこれまでに風の盆には二回しか行ってないが、
一番忘れられない光景は東の空が白む頃。

踊り疲れた菅笠が、二人三人と我が家を目指して去ってゆき、
最後に人影が少なくなった朝もやの中を、三味線は太い拍子を刻みながら街角の左へ、
胡弓はひたすら楽器を泣かせながら、右へと消えてゆく情景である。
その背中におわらの粋と誇りを見るような気がしたのだ。

瓦屋根に朝日が鈍く反射しはじめると、八尾の町は遅い眠りにつく。

風の盆は毎年9月1日から、三日三晩訪問者を魅了してやまない。


※この記事は俳句は別として、昨年の文章をあらかた引用したものです。
風の盆を語るには残念ながら私の筆力では、これ以上のものが書けないからです。
でも少年時代を過ごした故郷、富山での最も美しい記憶、おわら風の盆。
秋風が立つ頃になると、どうしても語らずにはおれなくなるのです。



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