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中国悪女伝(其の四) 2016年03月16日 歴史 トラックバック:0コメント:0

呂后。
(りょこう)

間があいてしまいましたが、悪女伝の続きです。前回は驪姫(りき)のお話しでしたね。
驪姫が自害したのは前651年のことです。

それから430年後、戦国の覇者となり中国を統一したのがご存知、秦の始皇帝ですが死後は再び乱世となりました。
我こそはの野望を抱いた男どもの中で、抜きん出たのが項羽と劉邦。
苛烈な死闘を繰り返した結果、劉邦が幸運にも天下を制したことは良く知られていますね。

劉邦が皇帝に推されて即位したのは前202年。いわゆる漢帝国の始まりです。
後世に「高祖」と崇められた劉邦ですが、もともとが《やくざ者》のような存在でした。
仕事もせず、酒色にうつつを抜かしていたといいます。

ただ劉邦は鼻が高く立派な髭を持った、『龍顔』といわれる尊貴な容姿をしていたようで、
そのために乱世における一方の旗頭として、担ぎあげられたのです。
まだ《やくざ者》だったその劉邦に嫁いだのが、土地の有力者の娘、呂雉(りょち)でした。

担ぎ上げられて次第に大軍の大将となったものの、戦下手の劉邦は戦えば負けて、
その都度命からがら逃げ回っていたのですが、そんな劉邦と危険を共にし、
ともすれば何もかも投げ捨てて雲隠れしようとする、弱気な夫を励まし励まししてきたのが呂雉でして、
まさに糟糠の妻だったわけですね。

『龍顔』が持つ特別な運命なのでしょうか、劉邦は図らずも大帝国の主となりました。
ところが何でも手に入るようになった劉邦は、好色の本性を現して真っ先に天下の美女を漁ったのです。
その中で最も愛した女性が威夫人でした。
威夫人に溺れた劉邦は次第に口やかましい呂雉を遠ざけるようになります。
img115.jpg
陶製『三彩婦人』。
ILLUSTRATED BY NANTEI

皇后として《呂后》と称されるようになった呂雉ですが、それは頭にくるでしょうね。
「だれのおかげで皇帝になったと思うとるだがや!」
もともとが疑い深く、嫉妬深い呂后でしたから胸の奥深く復讐の炎が燃え盛っていたに違いありません。

疑い深いといえば劉邦が皇帝になってからは、その天下を脅かすような実力者を讒言して死に至らしめたのも呂后でした。
長年軍旅を共にした将軍たち、彭越、鯨布、そして天才的な兵略家・韓信といった功臣が次々と粛清されたのですが、
酒色に溺れるだけとなった皇帝劉邦は、ただただ呂后の言うなりだったのです。

間もなくして、やくざ者の皇帝劉邦は波乱の人生を閉じます。紀元前195年のことでした。
悲しみの反面で「よっしゃ~!」と思ったのが、権力を握った呂后です。
さっそく憎っくき威夫人を捕え、書くのもおぞましい残虐な方法で始末してしまいました。
もちろんその子、如意も殺されたのは無論です。

更には旦那だった劉邦の一族劉氏を弱体化しようとしたのです。
後継ぎの息子、恵帝は虚弱体質でしたから自分が権力を握っている間に、
実家である呂氏によって、天下を固めようと考えたからでした。

劉一族の有力者を遠方の知事や守備隊長に追いやり、それに反抗する者は即座に命を奪ったのです。
代わりに呂台、呂産、呂禄といった呂后の縁者に軍事権や統治権を与えたものですから、呂氏一族は大いに栄えました。

その呂后も病に侵され(乳癌の類といわれてますが)、61年の人生を閉じました。紀元前180年のことです。
その遺言は、「葬式はいらぬ。葬式にかまけている間に不平分子に宮廷を乗っ取られたらどうするだがや!」

呂后の後半生は、極度の猜疑心が産んだ恐怖によって左右されていたようです。
恐怖にかられた人間は、追いつめられると何をしでかすか、わかったものではありません。
呂后の残虐さも、そんな恐怖の裏返しだったのでしょう。

ま、呂后のように極端ではありませんが、権力者というのは多かれ少なかれ、
そんな心理状態に陥るのではないでしょうか。

我が国でも天武天皇の妃、後に持統天皇となった女帝は我が子の将来を案じるあまり、
母の異なる大津皇子を反逆の罪で処刑し、人望の篤かった高市皇子を密かに毒殺したという例があります。

さて、呂后が亡くなった後の呂氏一族ですが、その凋落は呆気ないほど早かったようです。
辺境へ追いやられた劉氏の一族が兵権を奪い返して都に乱入し、
また呂氏に恨みを持つ旧臣たちも私兵を集めて一族の邸宅を襲ったため、
呂氏の主だった者は全て命を奪われてしまったのです。

呂后の死からわずか一カ月足らずのことでした。

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