隠れ里 2017年06月11日 俳句 トラックバック:0コメント:16

近江A


菅浦。

何度か琵琶湖周辺を旅したことがある。
その中で最も印象深いところといえば、菅浦という集落だろう。
白洲正子の《かくれ里》という旅の随筆で知り、是非にもと訪れたのだった。

菅浦は琵琶湖の真上の喉仏のような半島、その湖岸にへばりついた集落である。
車が無ければ非常に不便なところだが、不便でなければ「かくれ里」にはならない筈だ。

関東から行くには米原で北陸線に乗り換え、さらに近江塩津で湖西線に乗り換えて、
近江今津という駅からバスで約一時間、しかもバスは日に何本かという厄介な行程である。

この集落は奈良時代から漁業を営み、 朝廷へも魚を献じていたと伝わる古い歴史を持つ。
東西の入口には、よそ者を誰何するために四足門を構えていた。
今も四本の柱と、茅葺き屋根が残されている。

戸数は二百たらずであろうか。
にもかかわらず須賀神社という大社と、 廃寺も含めると寺院が五つ。
相当の財力を持っていた集落だということが、よくわかる。
家並みに入ると、石垣の細い道が続く。 出会うのは殆ど高齢の方だったが、みな血筋のよい顔に見えた。

その日は風のない、ぬるりとした一日で、
琵琶湖は油を流したようにさざ波さえ見えず、 まさにあぶら凪であった。

集落を一回りした後、やや離れた宿に入る。
夕食は鯉こく、わかさぎの天麩羅など淡水魚中心である。
近江の有名な郷土料理、鮒鮨も添えられていた。

鮒鮨は「なれ鮓」の一種で主に魚を塩と米飯で乳酸発酵させた食品である。
現在の寿司は酢飯を用いるが、なれ鮓は乳酸発酵により酸味を生じさせるもので、
これが本来の(鮓)の形態である。 現在でも各地でつくられている。

せんだって紹介した加賀の「かぶら鮓」、それから福井の「へしこ」などもそうである。
なれ鮓は好き嫌いがはっきりと分かれるそうだが、中でも鮒鮨は筆頭といっていいだろう。
なにより醗酵した魚の匂いが駄目、という意見が最も多いようだ。

「くさや」も同じく匂いで敬遠されるが、何かの拍子で好物に替わるという人もいる。
実は私もそうで、今では「くさや」も「鮒鮨」にも抵抗が無くなった。
理由はわからないが、提供されたときの状況が良かったのだろう。

近江B

おかげで、琵琶湖周遊への気がかりは全く無くなった。
ちなみに揚句の《淡海》は「おうみ」と読む。琵琶湖のことである。
これが転じて一帯を近江と呼ぶようになった。


ここで載せた写真は、デジカメがまだ高価で普及していない頃、
フジフィルムの使い捨てカメラで撮影したものである。
梅雨時の菅浦は、映した写真すべてが靄の中のようにぼやけてしまった。

二枚目の町並みは、彦根城下にある「夢京橋キャッスルロード」。


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コメント

>菅浦・・
>何度か琵琶湖周辺を旅したことがある。
から始まる、短編小説を読んで居る様でした(^^)/
南亭さんの文才は、知って居ましたが
改めてそう思いました。<(_ _)>
  1. 2017/06/11(日) 12:00:58 |
  2. URL |
  3. みなと #-
  4. [ 編集 ]
菅浦、初めて知りました。
余呉湖の辺りかな~と地図を見ましたら、海津大崎の隣の半島なんですね。

海津大崎の今津だったか・・・・桜の見事な処がありますね。
そこに、
故・遠藤周作氏の《かくれ宿》があると知って、3回ほど行きました。
鮒ずしが有名らしい≪魚治≫さんが経営されているのかな?
〈湖里庵〉という名前、命名は狐狸庵にちなんでいます。

桜の頃は予約がなかなか取れませんが、また行きたい料理旅館です。
  1. 2017/06/11(日) 17:19:55 |
  2. URL |
  3. こすずめ #-
  4. [ 編集 ]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2017/06/11(日) 21:15:22 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集 ]
みなとさん。
こんばんは。

ほんとうですか?

そうでしたら、非常に嬉しいことです(泪。。。

文章にコンプレックスを持ってますので。
あ、文章だけではなかった・・・(><)

  1. 2017/06/11(日) 21:22:34 |
  2. URL |
  3. NANTEI #8g7ZE2Jk
  4. [ 編集 ]
こすずめさん。
こんばんは。

余呉湖、近いといえば近いですが。
湖北は交通が不便で、近いはずが非常に時間のかかるところばかり。
これは十数年前の旅でしたから、今はだいぶ事情が異なると思います。

故・遠藤周作さんにちなんだお宿「湖里庵」!
出来すぎかなーと思いますが(笑
桜の頃ですか・・・

生きてあるうちに逢いたい桜、限りなくあって惑乱しそうです^^;
  1. 2017/06/11(日) 22:47:49 |
  2. URL |
  3. NANTEI #8g7ZE2Jk
  4. [ 編集 ]
こんばんは
誰かのコメント ちらと見てしまいましたが
私も同感! 小説読んでる気がしてきましたよ
菅浦紀行

琵琶湖は大津から行ったきりで
向こう側には廻りませんでした
学生時代の遠い昔です
とにかく海のように大きかったのを覚えています
夏休み 琵琶湖で甘酒のんで・・・

菅浦・・・いいですね そのまま残しておきたい菅浦

でも川魚は苦手です(笑)
  1. 2017/06/12(月) 00:52:42 |
  2. URL |
  3. ミニヨン #pgQJ7few
  4. [ 編集 ]
真夜中に。
実は休む前に拝見していました。
やはり素晴らしい随筆に出会ったと思いましたね。
と、同時に、若い時にしても大津に二年ほど住んだのに、
知らない地名でした!
湖北が好きだと通う人が、以前この岡崎ではありましたが、
あら、そうなの…くらいにしか思わずで。
その時にこの文章を読んでいたら、きっと行っていたのかも。
あ、鮒鮨は住んでいた頃にはダメでした。
だいぶん後で美味しいと思うようになりましたが。
  1. 2017/06/12(月) 03:35:43 |
  2. URL |
  3. Yukuko #T2PFTBgw
  4. [ 編集 ]
NANTEIさん、こんにちは

富士フィルムの使い捨てカメラよく使いました
こうしてみると今の性能の良いカメラの写真より
趣がありますね

京都に3年ほど住んだことのある娘が
時々なれ鮓を持ち帰り
食べ残しを冷蔵庫に保管することがありました
たまったものではありませんでした、あの匂い
くさやは父が好きで私も美味しいと思って食べましたが
なれ鮓はだめでした
食べているうちにこれも美味しいと感じるようになれるものでしょうかね~

そういえば夫がくさやの干物を海外駐在の友人に頼まれて
スーツケースに入れて持参したところ
麻薬取り締まりの空港犬に怪しまれて
調べられてしまったそうです

夫のスーツケースの横で犬が座って知らせたそうですが
麻薬のにおいとは違うけれど
なんだかわからない経験したことのないにおいだったのでしょうね
その後の犬の嗅覚が狂っていなければよいねと笑ったものです




  1. 2017/06/12(月) 11:05:23 |
  2. URL |
  3. Hulahulaさん #amXlFcx2
  4. [ 編集 ]
Tさん。
こんにちは。

最近はなるべく「大らか」を心がけております。
しかし、ただただ軽くなる一方かと。。。

「俳諧師、見てきたような嘘をいい」
とも申します(笑

いつもご丁寧に、ありがとうございます。
  1. 2017/06/12(月) 12:21:36 |
  2. URL |
  3. NANTEI #8g7ZE2Jk
  4. [ 編集 ]
ミニヨンさん。
こんにちは。

望外のお言葉をいただき、恐縮です^^;

琵琶湖は大きいですね!
淡水の海、それが淡海(おうみ)になったような気がします。

交通が便利になると、文明が少しずつ侵略してゆくのでしょうね。
やむをえないとはいうものの、残念なことです。
  1. 2017/06/12(月) 12:25:42 |
  2. URL |
  3. NANTEI #8g7ZE2Jk
  4. [ 編集 ]
Yukukoさん。
こんにちは。

ありがとうございます♪

大津にお住まいでしたか?
湖北は魅力的なところです。
国宝級の十一面観音が小さな寺院にひっそりと納まっていたり、
こうして「かくれ里」が何百年も息づいていたり。

鮒鮨、正直言いますと進んでは食べたくないです(笑
  1. 2017/06/12(月) 12:30:19 |
  2. URL |
  3. NANTEI #8g7ZE2Jk
  4. [ 編集 ]
こんにちは。
名句、名文。
酔いしれましたがなー(^^)

揚句はいつぞや見せていただいた、
後藤師のような味わいがありますね。

菅浦、ここで始めて知りました。
それに湖西線なんて乗ったこともないですから。
「かくれ里」という響きもなにやら床し(笑い)

ただ、くさや系は勘弁願いたいです!
  1. 2017/06/12(月) 12:40:23 |
  2. URL |
  3. 笠地蔵 #-
  4. [ 編集 ]
Hulaさん。
こんにちは。

当時のカメラは重くて、旅には不便でした。
使い捨てカメラが出てきて、嬉しく思ったものです。
ただ、シャッターを押すだけの機能ですから、
仕上がりには不満が多かったのも確かです。

冷蔵庫になれ鮨・・・
想像しただけで、パニックになりそうです^^;
すっかり慣れたというわけではありません。
キレイに洗って薄く切ったのを、良い器に品よく盛り付ける。

見た目でなんとか口にできましたが^^

その犬はお気の毒としかいいようがありませんね(笑
嗅覚が狂ってしまわないことを祈るばかりです。
  1. 2017/06/12(月) 12:52:51 |
  2. URL |
  3. NANTEI #8g7ZE2Jk
  4. [ 編集 ]
笠地蔵さん。
いや、迷句迷文でしょ(’◎‘)

湖西線、今はどうか知りませんが、
電車の架線は直流だと聞きました。
JRは殆ど交流らしいですが。
「かくれ里」にふさわしいと思いませんか(笑

一度、くさやの瓶詰めを試してください。
呑み助なら、やみつきになるはず^^






  1. 2017/06/12(月) 18:47:32 |
  2. URL |
  3. NANTEI #8g7ZE2Jk
  4. [ 編集 ]
隠れ里をたずねる
NANTEIさん、一枚目の写真は靄がかかったようで雰囲気が出ていますね~
ハッキリ映るから良いとも限らず、こんな文章と俳句のコラボでお互いに生きて来るのですね。

くさやも鮒鮨も未体験です。
やはり、お酒と一緒が宜しいのでしょうね?

白洲正子の隠れ里を読んでの旅とは、
素敵なそんな旅をしてみたいものです。
  1. 2017/06/12(月) 22:35:44 |
  2. URL |
  3. ミルフィーユ #QgXOZ7z.
  4. [ 編集 ]
ミルフィーユさん。
おはようございます。

梅雨時でしたからね。
二十枚以上撮ったのですが、菅浦の写真はこれがベストだったのです。
ま、神秘的といえばそうですが(笑

なれ鮓はお酒で流し込む!
初めての方には絶対お勧めの方法です。
味わってはいけません(笑

食べ物につけ旅につけ、名随筆は悪魔的な誘惑力を持ってますね^^
  1. 2017/06/13(火) 09:05:51 |
  2. URL |
  3. NANTEI #8g7ZE2Jk
  4. [ 編集 ]

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